HIDEMITSU MASUI WORKS


冬ごもりしていたお気に入りの青いスプリングコート 真冬に買った白いナイキのスニーカー 少女は青コートの裾をなびかせ 昨夜に降ってできた水たまりを ゆうゆうと飛び越えていく 白いスニーカーのエアーは この水たまりを飛び越えるためのように 街ゆく人はお気に入りの新しい服をはおり どことなく街全体に高揚感がただよう 冬の間、収縮していたバネは大きく弧を描き飛び跳ねる 上空にはブルブルとヘリが飛ぶ 昨夜のマンション放火のバンキシャか 上野の山桜の見物か

休日出社で午前中の山手線に乗る 日暮里駅で2組の子連れが乗り込んできて 僕の席の隣に座る 2人の男の子は靴を脱ぎはらい 立膝をついて窓の外を眺め会話を始める 外に見える景観についての話 好きな鉄道の話 今朝テレビで見たヒーローの話 それらを脈略なく、時に一方的に じゃれあいながら話す その間に2人が身を返したり ホーズをとるたび 男の子の肘や足が僕の体に当たる 池袋にさしかかり母親が降りるわよ と合図すると 2人は身を起こし靴を履き始める すると僕の膝に小さな手が乗る 僕の膝を支えに靴を一生懸命に履いている 母親は僕の膝の手に気付いていない 男の子は僕に対し遠慮も意識もないく 履き終わると再びオチのない会話が始まる 互いの親に手を引かれながら 2人は電車を降りる

今朝のワイドショー番組で視聴者の便りをアナウンサーが読み上げる。 家族で旅行して旅館に泊まった時こと温泉に入ろうと、のれん前で夫に「ここで別れましょう」と告げると、そばにいた幼い娘が懇願するように「別れないで」と泣きついてきた。という、心温まるエピソードとして紹介されていた。 それこら、数時間後の通勤途中で似たような光景を見た。 駅中の乗り換えの連絡通路で母親に手をとられるも地面にひざまずき泣きじゃくる少年。 「待って、ゆっくり行って!」と、地面に動くもんか!と、ベッタリ張り付いている。 会話から、さっするに父親が後から来るのか、もしくは、何か用があって遅れてくるのか。どちらにせよ、少年は父親と別れ離れになってしまうのを案じていた。その、必死な様子を見ると、まるで一生の別れのように感じているようだった。 少年にしたら、自分の家から遠く離れた大きな駅は見知らぬ広大な砂漠のようで、家族が離れ離れになったら一貫の終わりだとでも思うのかもしれない。 自分にも親の間を取り持つような、必要のない心配をしていた時期があった。 出先で父親だけ電車に乗り遅れてしまって、そ

オレンジ色の電気スタンド 冷めたコーヒー 文庫の活字 ラジオから流れる音楽 煙と絵皿の灰 寒空の星 ビルの窓の夜更かしの灯り 夜に光合成する植物 土曜深夜4時15分
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